糖化反応(glycation)は1912年にLC Maillardがアミノ酸と還元糖を加熱すると褐色の色素が生成することを発見したことから、メイラード反応として知られるようになった。
発見以来、糖化反応は食品の加熱中に起こる着色や、香り・風味の変化、保存期間中の栄養価低下に関わる反応であることから食品化学の領域で注目されてきた。
1960年代になると、生体反応としてタンパク質糖化反応が注目されるようになり、その代表的な生成物としてヘモグロビンA1c(HbA1c)が血糖コントロール指標として糖尿病治療領域で臨床応用されるようになった。また糖尿病では様々なタンパク質糖化反応生成物が合併症の進展に関与していることが明らかになり、病態生理の解明・予防・治療への研究が展開されている。
さらに近年、糖化反応は老化現象、認知症、癌、高血圧、動脈硬化症などにも関与していることが明らかになり、食品、糖尿病以外の新たな分野でも研究展開されている。
私たちのエネルギー源としてブドウ糖は重要である。ブドウ糖はエネルギーになるだけではなく、その分解産物から脂肪が出来たり、タンパクや核酸(遺伝子の成分)になったりする。さらに脳はエネルギー源としてブドウ糖しか使えないので(糖質が少ないのが常態化すると、肝臓でケトン体を生成し、それを使う)、ブドウ糖が急激に少なくなると意識を失い、場合によっては死亡する。
このように生存に大きな役割を果たしている物質であるブドウ糖は同時に体の成分と結合して、その構造を変えてしまう。結合したものを糖化物質という。例えば皮膚のコラーゲンが糖化すれば、褐色になる。老人の皮膚が褐色に見えるのはこのためである。また白内障の白い部分は糖化したレンズのタンパクである。このようにブドウ糖は細胞の成分を糖化して機能を異常にさせる。
酸素もブドウ糖の生存に欠くべからざるものであるが、それが同時に老化を起こす物質なのだ。このように考えると生きてゆくということ自体が死に向かっているということである。
具体的には 身体の中でタンパク質と余分な糖が結びついてタンパク質が変性、劣化してAGEs(糖化最終生成物)という名の老化物質を生成する反応をいう。この老化物質AGEsは分解されにくく、そのAGEsの蓄積は肌や髪、筋肉、血管、骨など全身の老化を進行させ、さらに体調不良や様々な病気(肩凝りや腰痛、頭痛、ひざ痛をはじめ、糖尿病、高血圧、がん等々)のとなる。身体の臓器や組織を構成しているタンパク質と糖分の不規則な結合(糖化)によって産まれるAGEs(Advanced Glycation Endproducts:最終糖化生成物)は、タンパク質の褐色変化(硬化性変質)を引き起こすことで老化を加速させ、上記のように骨粗しょう症のほか様々な病気(糖尿病、高血圧症、がん等々)をもたらすことが近年の研究でわかってきた。血管、筋肉もたんぱく質(筋肉の1/3はコラーゲンで出来ていてコラーゲンの硬化は不可逆性である)で出来ており、コラーゲンが糖化すると不可逆性であるため、動脈硬化や筋硬化症は元に戻ることはない。特に表情筋(顔の筋肉)は2/3がコラーゲンで出来ているため、顔の皺は元に戻ることはないのである。
ヘモグロビンA1cが指標として用いられることでお分かりだろうが、米や麦、甘いお菓子の取りすぎが、肩凝り、腰痛を招いているのである。西洋人のようにインシュリンの効きの良い体質の人は肩凝り腰痛とは無縁である。(その代わりに肥満体ではあるが)これは糖質を摂取した歴史の長さの違いである。西洋人がシリアのチグリス・ユーフラテス川沿いで麦の栽培を始めたのが1万2千年前であるのに比べ、日本人が米を食べ始めたのは弥生時代、つまりほんの2,400年前である。歴史を知らず、日本人は農耕民族だなどと言う人がいるがとんでもない間違いである。
農耕の歴史は西洋人の方が4倍長い。つまり、時間がインシュリンの質を良くしたのである。インシュリンは余った糖を脂肪に変えるホルモンであるから肥満体になるのはやむを得ない。どちらが良いかは何とも言えないところだ。