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人生をよりよく生きるために、アンチエイジング大研究

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老化とは何か(老化のメカイズム)aiging
SUB

老化の原因

老化(ろうか、英: ageing、aging)とは、生物学的には時間の経過とともに生物の個体に起こる変化のことである。その中でも特に生物が死に至るまでの間に起こる機能低下やその過程を指す。
老化の原因として、現在考えられているのは、細胞の酸化と糖化、そして慢性炎症である。

酸化とは:
私たちは酸素を吸って生きている。酸素は肺から体に入り、細胞に送られる。細胞膜から細胞の中に入ると、栄養素となる物質を酸化する。例えばブドウ糖を酸化する。すると、ブドウ糖は分解してエネルギーを出す。このエネルギーを利用して私たちは生きている。ところが鉄錆などでも分かるように酸素は栄養物だけでなく、すべての物質を酸化する能力がある。とくに重要なのは酸化力の強い活性酸素を呼ばれるものである。酸素は酸化する時に電子を物質から奪う。その後水素イオンと一緒になって水になるのだ。もし電子が十分にないと、酸素は電子をより多く奪おうとして活性酸素というものになる。これは非常に酸化能力が強い。
細胞内に酸素が入ってくると、どうしても活性酸素が出来てしまう。活性酸素はあらゆる物質を酸化する。つまりサビをつくるのである。膜が酸化されてサビれがば、膜の機能は落ちる。遺伝子が酸化されれば、異常な分裂をおこし、ガン化したりする。さらに細胞は死滅してしまう。
このように考えると息きをするという、生存の必須条件であるが、それは同時に老化への道だということになる。
しかし、2005年7月、東京大学食品工学研究室の染谷慎一をはじめとする東京大学・ウィスコンシン大学・フロリダ大学の共同研究チームは活性酸素は老化に関与していないとする研究結果を発表した。

糖化とは:
一方私たちのエネルギー源としてブドウ糖は重要である。ブドウ糖はエネルギーになるだけではなく、その分解産物から脂肪が出来たり、タンパクや核酸(遺伝子の成分)になったりする。さらに脳はエネルギー源としてブドウ糖しか使えないので(糖質が少ないのが常態化すると、肝臓でケトン体を生成し、それを使う)、ブドウ糖が急激に少なくなると意識を失い、場合によっては死亡する。
このように生存に大きな役割を果たしている物質であるブドウ糖は同時に体の成分と結合して、その構造を変えてしまう。結合したものを糖化物質という。例えば皮膚のコラーゲンが糖化すれば、褐色になる。老人の皮膚が褐色に見えるのはこのためである。また白内障の白い部分は糖化したレンズのタンパクである。このようにブドウ糖は細胞の成分を糖化して機能を異常にさせる。
 酸素もブドウ糖の生存に欠くべからざるものであるが、それが同時に老化を起こす物質なのだ。このように考えると生きてゆくということ自体が死に向かっているということである。

慢性炎症とは:
 炎症が老化において果たす役割
 慢性炎症は、正常な老化と病理的老化のいずれにも関連している。テロメアの損傷が起こると、細胞老化が始まり、生きた細胞の成長と分裂が止まるため、体内の組織が再生し、自己修復する能力が制限される。これは、老化時の内臓器官の機能維持にとって最も重要な能力だ。
 今回、Thomas von Zglinickiたちは、遺伝子操作マウスが慢性で進行性の軽度炎症にかかると、早期老化が起こることを明らかにした。その原因について、Zglinickiたちは、活性酸素種(酸素を含む化学反応性分子)によってDNAが損傷して、そのためにテロメアの短縮が進み、その結果として、老化細胞の蓄積が促進されるという仮説を示している。細胞老化が進むと、慢性炎症が悪化し、組織の再生が抑制され、老化がさらに加速するのだ。また、Zglinickiたちは、抗炎症薬イブプロフェンや抗酸化剤の投与によって、炎症が発生した組織における老化細胞の蓄積が阻止され、組織の再生能が回復することも明らかにした。
 これらのデータは、他の遺伝因子や環境因子が存在していなくても、炎症が起こると、老化が加速することを示している。しかし、老化過程におけるこうした相互作用の分子機構と細胞機構は十分に解明されていない。それに加えて、マウスの老化を誘導するために用いる遺伝的修飾には重篤な病変を伴う。従って、今回の研究による観察結果が、正常な老化とヒトの老化にとってどの程度重要な意味を持つのかという点には、不透明性が残っている。
 DOI:10.1038/ncomms5172 | 英語の原文


老化しない細胞

 動物の体にある細胞の大半は、分裂できる回数に限りがある。つまり寿命があるのだ。これには、染色体の末端に位置するテロメアと呼ばれる配列が深く関係している。

 細胞分裂ではまずDNAが複製される。DNAの複製はプライマーという断片配列を足がかりに行われるが、染色体の末端ではプライマー部分の配列は複製されないので、細胞分裂を繰り返すごとに末端は短くなっていく。

 染色体の末端にはテロメアと呼ばれる繰り返し塩基配列ががありる。ヒトの場合は、TTAGGGという配列が約1万塩基繰り返されている。細胞が分裂すると染色体の末端のテロメア配列が少しずつ失われていく。

 テロメアの長さは、細胞分裂の回数を測る尺度(分裂時計)として機能し、細胞の寿命を調節していると考えられている。ヒトではテロメアDNAが5000塩基くらいになると、細胞が寿命(分裂寿命)に達し、それ以上の分裂は起こらない。また、寿命に達しなくても、細胞がテロメアの長さで分裂時計の進行を感知することが老化につながっているとも言われている。一方、環状のDNAを持つ細菌などは、末端が存在しないので分裂寿命はない。
 ヒトの体においては、生殖細胞は細胞分裂を繰り返してもテロメアが短くならず、長いままのテロメア配列を子孫に伝達することができる。これは、生殖細胞ではテロメラーゼというテロメアDNAを維持する酵素の働きがあるからだ。ヒトのテロメラーゼは発生初期には活性を持つが、ある時期から生殖細胞など一部の細胞を除いて働きが抑えられる。

 テロメラーゼ活性は細胞のがん化とも密接な関係がありる。正常な細胞では、テロメアがある限界を超えて短くなると、がん抑制遺伝子が働いて、細胞分裂がストップする。そうなると、細胞は糖化、酸化により老化するしかない。

 ところが癌細胞ではこのDNAの短縮がおこらない仕組みになっている。つまり細胞は永遠に分裂するのだ。ほとんどのがん細胞ではテロメラーゼが活性化されていて、細胞は無限分裂寿命を獲得し、増殖が留まらなくなっているのだ。つまり、がん細胞はテロメアによる細胞の分裂と監視を逃れた状態にあるのだ。
そうすると老化しない代わりに、体のなかで広がり、結局個体を死においやる。細胞自体は勝手に分裂しても、個体では異物になるので、臓器の機能は失われる。

さらに癌細胞は分裂にエネルギーと機能のすべてを使われるので、細胞本来の機能は失われることが多い。例えば胃ガンの細胞は、増殖するのが種で、本来の粘膜細胞としての機能は非常に少なくなる。すると、機能をもたない細胞がどんどん増えるとこになり、胃の機能はなくなってしまう。さらに転移がおきれば別の臓器でも同じことがおき、結局個体は死ぬことになる。
 
 このように考えると細胞は普通は次第に老化してゆく、しかし老化しない変化を受ければガン化することになるのである。

 固体の老化や細胞のがん化とテロメアの長さには密接な関係があるため、テロメラーゼを標的とした抗がん剤の開発や、細胞にテロメラーゼ活性を与えて老化を防ぐ研究などが進められている。


最新の研究(論文紹介)

 老化については、生物学・医学と社会科学で多角的に研究されている。
培養細胞を用いた研究から細胞レベルでの老化(細胞老化)が知られている。
生体組織から取り出した細胞を in vitro で培養すると、細胞分裂の回数に制限あり、その一つの原因は染色体末端のテロメア構造が短くなったためであるとされる。がん細胞や幹細胞ではテロメアを伸長する酵素テロメラーゼの働きにより、細胞分裂の回数の制限がなくなると考えられている。不老化したわけではない。

大阪大学などのチームは老化原因のたんぱく質「C1q」を発見した。生後2年のマウスは、生後2カ月のマウスの5倍以上となり、たんぱく質「LRP5」「LRP6」を切断、老化を促進させた。「C1q」の生産を阻害されたマウスは、心不全、動脈硬化、糖尿病が改善した。

-論文紹介-

補体C1qWntシグナルの活性化を介して細胞を老化させる

第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月

Atsuhiko T. NaitoCell 149:1298-1313, June 8, 2012
文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)

Atsuhiko T. Naito, Tomokazu Sumida, Seitaro Nomura, Mei-Lan Liu, Tomoaki Higo, Akito Nakagawa, Katsuki Okada, Taku Sakai, Akihito Hashimoto, Yurina Hara, Ippei Shimizu, Weidong Zhu, Haruhiro Toko, Akemi Katada, Hiroshi Akazawa, Toru Oka, Jong-Kook Lee, Tohru Minamino, Toshio Nagai, Kenneth Walsh, Akira Kikuchi, Misako Matsumoto, Marina Botto, Ichiro Shiojima, and Issei Komuro. Complement C1q Activates Canonical Wnt Signaling and Promotes Aging-Related Phenotypes. Cell. 149:1298-1313, 2012

論文解説

我々の体には体内に侵入した異物や微生物を排除するために働く補体と呼ばれるタンパク質が存在します。補体で最初に反応する成分である補体第一成分(C1)は、血液中を3つの複合体C1q-r-sの形で浮遊しており、免疫複合体(1)を介して異物と結合することで補体の活性化を促し、異物細胞膜に穴をあけることで異物排除へと導きます。そのように体を異物から守ってくれるはずの補体ですが、その成分の中に実は体内の細胞老化を促進してしまう分子が含まれていることが明らかにされました。本論文では、その老化の原因となりうる分子について紹介しています。

補体の活性化には3つの経路があり、古典経路・レクチン経路・副経路が存在します。老化を促進するとされるのはそのうち古典経路の開始に関与するC1qと呼ばれる分子でした。

筆者らは若いマウスに比べて高齢マウスの血中にC1qが上昇しており、それに伴いWntシグナル(2)の活性化が上昇していることをつきとめました。筆者らは、これまでにWntシグナルの異常な活性化は、細胞の老化により誘発されるガン・心不全・糖尿病・動脈硬化などの発症に関わることを確認しており、今回のマウスによる知見からC1qによるWntシグナルの活性化がそのような疾患の引き金になるのではないかと述べています。

まず筆者らは若いマウスと高齢マウスの血中及び組織中のC1q発現量を比較しました。

http://www.med.keio.ac.jp/gcoe-stemcell/treatise/img/img_20130319_01_01.jpg
(
論文より引用)

A. ELISA法によるマウスの血清中のC1q濃度測定値。高齢ほどC1qの血清濃度は上昇している。
B. TOPFLASH
アッセイによるWntシグナル活性測定値。高齢マウスの血清中ほど活性化が上昇している。
C.
イムノブロット法によるマウスの各組織中のC1qタンパク量。高齢ほどC1qの発現は上昇している。

その結果、高齢マウスの血中及び様々な組織内でC1qの発現は上昇していること、またそれに呼応してWntシグナルの活性化が亢進していることが確認されました。

さらに、若いマウスにC1qを投与することで高齢マウスにみられるような骨格筋再生異常が起こり、C1qによるWntシグナルの活性化を阻害すると、その再生異常は改善されたことから、C1qWntシグナルを介して骨格筋の再生異常をもたらすことが明らかになりました。

http://www.med.keio.ac.jp/gcoe-stemcell/treatise/img/img_20130319_01_02.jpg
(
論文より引用)

D.細胞老化マーカー(β-gal galactosidase)染色。マウスの骨格筋損傷部位においてC1q処理により細胞老化が亢進した。

また、筆者らはWntレセプターであるFrizzledC1qが結合することを免疫沈降により証明しています。さらに、WntレセプターであるLRP6を過剰発現させた肝腫瘍細胞に、補体を含むヒト正常血清をかけると培養上清中にLRP6N末フラグメントが上昇することをイムノブロットにより確認しています。つまりこれらのことから、補体中のC1qFrizzledに結合することで細胞膜上のLRP6が切断を受け、培養上清中に分泌されていることを示しています。

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(
論文より引用)

E. C1qによるWntシグナル活性化メカニズム。
C1q
WntレセプターであるFrizzled(3)に結合するとC1r, C1sが順次活性化され、活性化C1qによりLRP5/6(3)が切断され、Wntシグナルが活性化する。

今回の知見から老化を招くタンパク質C1qを同定したことより、Wntシグナルの阻害もしくはWntレセプターとC1qの結合を阻害することで、ガンや糖尿病などの老化から引き起こされる様々な疾患を予防できる可能性が示唆されました。Wntシグナルは発生や臓器形成、また幹細胞の維持に関わる重要な活性経路である一方で、細胞老化の引き金となりうることより、幹細胞の分化・増殖を研究する上で重要な因子であると考えられます。

-用語解説-

·      1 免疫複合体:
抗原と抗体の特異的結合物。

·         2 Wntシグナル:
ショウジョウバエからヒトまで広く保存され、形態形成、幹細胞の自己複製に至る様々な生命に重要な役割を果たすシグナル伝達経路。

·         3 Frizzled, LRP5/LRP6
Wnt
レセプター。Wntが結合することでシグナル伝達が開始する。



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